スサノオの同一神

スサノオと同一視される他の神

蘇民将来の伝説に登場する武塔神

八坂神社の牛頭天王はよく知られるが

日本神話に登場する素戔嗚尊(スサノオノミコト)は、しばしば他の神と同一視される。八坂神社で祀られていた牛頭天王(ごずてんのう)は有名であるが、ほかにも【蘇民将来の伝説】における【武塔神】の存在があげられる。この説話は全国で行われる大祓神事の起源ともいわれる。

目次

防疫神〜穢れを祓い無病息災を司る神

スサノオと同一視される牛頭天王

牛頭天王は祇園精舎(釈迦によって開かれた道場)の守護神とされるが、インドや中国、朝鮮半島で信仰された形跡はなく、日本独自の神である。
その牛頭天王のルーツについてはよくわかっていないが、疫病を司る神とされる。
この防疫神としての牛頭天王の性格は、蘇民将来(そみんしょうらい)の伝承に結びついている。

大祓〜半年間の穢れを祓い無病息災を祈る

毎年6月末と12月末に全国の神社で行われる大祓は、知らずに身についた半年間の罪・穢れを祓い、無病息災を祈る神事で、神社の境内にて茅の輪くぐりが行われる。
この茅の輪の由来が蘇民将来伝説である。

蘇民将来の伝説〜武塔神とは

武塔神という神が村を訪れ、蘇民将来がもてなした

昔、旅をしていた武塔神(むとうしん)という神がある村で宿を求めた。
しかし、裕福な巨旦将来(こたんしょうらい)はこの申し出を断り、巨旦の兄である蘇民将来は貧しいながらもてなした。

武塔神が「私はスサノオである」と言ってくる

これに感謝した武塔神は数年後に蘇民将来のもとを訪れた。
そして、「私は素戔嗚尊である」と名乗り、無病息災の力がある茅の輪を授けたといわれる。
そして「蘇民将来の子孫なり」といいながら茅の輪を腰につければ疫病から逃れることができることを伝えた。

蘇民一族が無事に疫病から救われる

その後、疫病が流行した際、巨旦一族は全員亡くなってしまったが、蘇民一族は疫病から逃れることができたという。

武塔神は記紀神話には登場せず

蘇民将来と巨旦将来も日本人名とは思えず

武塔神も【記紀】やそのほかの神話に登場しない謎の神である。
また、「蘇民将来」と「巨旦将来」という名前も日本人とは考えにくい独特なものである。
ここから外来の伝承とも考えられるが、はっきりとしたルーツはわかっていない。

天界を追放されたスサノオと武塔神が重なる

素戔嗚尊は天上世界を追放された際に、財産を没収され、髭を切られ、爪を抜かれた。
その時の様子について、『日本書紀』では「青草を結んで蓑笠の代わりにしてさまざまな神々に宿を求めた」とある。
このやつれ果て、宿を求める姿が武塔神と重ね合わされたのかもしれない。

牛頭天王=素戔嗚尊=武塔神なのか?

いずれにしても、牛頭天王=素戔嗚尊=武塔神という、いくつもの神が習合した信仰が祇園神ということになる。

蘇民将来も防疫神として信仰される

さらに蘇民将来自体を防疫の神とする信仰も生まれた。
八坂神社の境内にある摂社・疫神社の祭神は蘇民将来となっている。

牛頭天王〜“疫病を司る神”

牛頭天王は疫病をもたらす存在でもあった

牛頭天王は八坂神社では善神とされているが、牛頭天王が疫病をもたらす疫鬼として描かれている絵がある。
辟邪絵と呼ばれるもので、陰陽道における天刑星という神が、疫病をもたらす牛頭天王を食べている様子が描かれている。

疫病を流行らせる事も沈静化させる事もできる

蘇民将来伝説においても、武塔神にぞんざいな対応をした巨旦一族は疫病で絶えている。
このことから、牛頭天王は疫病を防ぐ神というよりも、疫病を流行らせることも、沈静化させることもできる神、つまり疫病をコントロールする神といえるだろう。

スサノオとオオクニヌシの神話

疫病は疫神・疫鬼が引き起こす、という考え

古代において、目に見えない疫病は疫神や疫鬼によって引き起こされると考えられた。
『日本書紀』では素戔嗚尊の子とされる大国主神は、江戸時代の国学において、目に見えない幽界を治める存在とされた。
この大国主神と同様に素戔嗚尊が目に見えない世界の住人として描かれているエピソードがある。

スサノオの娘とオオクニヌシの出会い

大国主神が兄である八十神から幾度も命を狙われたことから、木の国の先にある根の国(死者の国)へと逃れることになった。大国主神が根の国に向かうと、そこには素戔嗚尊の娘である須勢理毘売命がいた。こうして2人は結ばれ、結婚を素戔嗚尊に願い出た。

試練を出すスサノオ

これに対して素戔嗚尊は、ヘビがいる部屋やムカデとハチがいる部屋に泊まらせるなどの試練を与える。この危機を須勢理毘売命の助けで乗り切ると、さらに火攻めに遭う。その苦難はネズミの助けで乗り越えた。そして、ようやく気を許した素戔嗚尊が寝ている隙に、その髪の毛を柱に結び、扉を大岩で塞ぐと、須勢理毘売命とともに地上世界へと逃げ出した。

二人の結婚を認めたスサノオ

これに気がついた素戔嗚尊は後を追うが、地上世界との境である黄泉比良坂まで来ると諦め、大国主神に向かって、兄弟の八十神たちを追い払い、須勢理毘売命を正妻に迎えて出雲に大きな宮殿を建てるようにいった。こうして、大国主神は、大いなる国の主として活躍していくのである。

神は恵みも厄災をもたらす存在

穢れの最終処分場・根の国

この根の国が、大祓の神事において奏上される大祓祝詞にも登場する。
知らずに身についた罪や穢れを祓う役割として、川の流れや風などの4柱の神々が登場する。
この4柱の神々は祓戸四神と呼ばれ、速い流れと強い風などで、罪・穢れを根の国へ祓い飛ばして、ここで罪・穢れが消えることになる。

その根の国に住むのがスサノオ

罪・穢れの最終処理場として、根の国が登場するのである。
そして、この根の国の住人が素戔嗚尊であり、ここからも疫病の神としての素戔嗚尊の側面が読み取れる。

神の力が恵みに向くよう祭祀が始まった

日本では、強い力を持つ神は大きな恵みをもたらすとともに、深刻な災厄をもたらすとも考えられた。
力のベクトルがどちらに向くかで、恵みともなれば災厄になるとも考えたのである。
そのため、人々は祭祀を行い、神の力を恵みに向くように祈ったのである。


↑ページTOPへ