街中に稲荷神社などの小さな神社を見かけることはよくあるだろう。神話において神様は人間と同じようにひとつの人格を持った存在として描かれている。
ところが、全国には同じ神様を祀る神社が数多くある。これは少し不思議な感じがするかもしれない。
なぜ、一柱の同じ神様が、全国あちこちの神社に祀られているのか。
全国に同じ神様を祀る神社が多くあるのは、ほかの神社から神霊を分霊して祀ったためで、これを「勧請」という。
武士によって氏族が各地へと広がる中で、新天地で自らの氏神を祀るようになったのだ。経済が発展すると商人も邸内に個人的な神社を勧請するようになった。
そして、全国の神社の勧請元となった中心的な神社を、総本宮(総本社)や根本社と呼ぶ。
では、総本社の神様と勧請先の神様は異なる存在かというと、そうではない。
物理的には別々に存在することになるが、これはあくまで私たちが生きる目に見える世界のことであり、勧請された各分霊は同一の存在であるとされる。
日本の神様はよくローソクの火に例えられる。
分霊はローソクからほかのローソクに火をつけるのと同じことであり、移されたローソクの火も、もともとあった火も「火」であることに変わりはない。
また元のローソクの火の勢いは弱まることもなければ、移されたローソクの火が弱いということもない。
このように分霊された神様はそれぞれ同じ神威を保ちながら同一の存在であり続けるのである。
ちなみに、お神札は1年に1度取り替えるものとされるが、これはお神札に分霊をしているわけではなく、神様の神威を一時的に込めたものとされるからである。
分霊とは異なっているため、1年を目安に取り替えることになっているのだ。
商業の発展とともに商売繁盛のご神徳がある稲荷神社が多く分霊されたり、海の要衝においては海上交通の神様が祀られたりした。
人々が広範囲に移動することによって、信仰も広がり、多くの神社が全国に勧請されるようになった。
こうして日本全国の至るところに神社が存在するようになったのである。