中国の海洋進出

中国の海洋進出

2010年代に入り自らの領土的野心を隠そうとしなくなった中国の習近平政権。
南シナ海などで、武力による実行支配の既成事実化を進める。
2016年7月、南シナ海での領有権をめぐる国際仲裁裁判で中国は敗訴するも、この判決に猛反発している。

南・東シナ海の実効支配を狙う

海洋強国を目指す中国

1990年代、ケ小平(とうしょうへい)は「能力を隠して力を蓄える」という意味の「韜光養晦(とうこうようかい)」を外交のスローガンとしていた。
しかし、それらか約20年後の2010年代、世界経済における影響力の高まりを背景に「中華民族の偉大なる復興」を掲げる習近平は、自らの野心を隠そうとしなくなった。
2012年11月には、共産党大会で「海洋強国の建設」を目標に掲げて海洋資源などの権益確保を明記している。
その直前には中国初の航空母艦「遼寧(りょうねい)」を就航させるなど、海軍力の強化を進めている。

80年代から計画されていた海洋進出

中国が海洋進出の野心を隠そうとしなくなったのは習近平政権になってからであるが、その予兆は以前からみえていた。
中国は、80年代半ばには既に、中国海軍の父と呼ばれる劉華清(りゅうかせい)が「近海防衛戦略」を提唱して海軍力強化を始めていた。
この戦略では、中国海軍が近海・外洋へと展開していく目標が示されている。
「近海」にあたる「第一列島線」内側の制海権を2010年までに、「外洋」にあたる「第二列島線」内側の制海権を2020年までに確保する事が目指されていた。

列島線が含んでいる海域

  • 第一列島線
    九州・沖縄からマレーシア沿岸までを結ぶ線。
    南シナ海から東シナ海、沖縄や尖閣諸島、台湾までの広い海域を含む。
  • 第二列島線
    伊豆諸島からグアムを経て、パプアニューギニア島に至る線。
    本州の関東以南から四国、九州、フィリピンなどを含む広大な海域。
    中国では、2020年までに制海権を確保すべき外洋と位置付けている。

現在も進行中の海洋進出

上記の海洋進出の目標は、2017年代ではまだ達成はされていない。
しかし、2000年以降、東シナ海に軍事転用も可能な海洋ガス田プラントを建設している他、日本の沖縄県・尖閣諸島を自国の「革新的利益」と位置づけ領海・領空侵犯を繰り返し、尖閣諸島を含むエリアを防空識別圏に設定する等、調圧的な行動をエスカレートさせている。
この海域では、現在でも、連日のように中国船による領海侵入が行われている。

米軍のいない南シナ海の実効支配を狙う

南シナ海をすっぽり囲う「九段線」

在日米軍が警戒している東シナ海以上に、中国は南シナ海での海洋進出を進めている。
南シナ海では元々、在フィリピン米軍が制海権を確保していた海域であったが、1992年にフィリピンから米軍が撤退して以降、軍事的空白が生まれている。
米軍との衝突を避けられると踏んだ中国は、この海域のほぼ全域を含む「九段線」を設定し、その内側全てで領有権を主張している。
ベトナムやフィリピンなどの主張と対立する中、2014年頃からは南沙諸島(スプラトリー諸島)に人工島を造成し、軍事拠点化を進めている。

日増しに緊張高まる南シナ海

こういった中国の武力を背景とした強引な現状変更には世界各国から非難の声が上がっている。
アメリカを中心とした周辺国による対中包囲網が形成されつつある。
また、2016年7月には、国連海洋法条約に基づいてフィリピンが提訴していた国際仲裁裁判で、九段線に基づく中国の領有権主張を否定する判決も出されたが、中国は猛反発している。
現在、中国は周辺国の反発を無視して、南シナ海での漁獲禁止などを一方的に発表している。
さらに、地対空ミサイル拠点の配備なども強行しており、米中による武力衝突が懸念されている。


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