古代アンデス文明の脳外科手術

古代アンデス文明の脳外科手術

2000年前の脳外科手術

目的は諸説あるが、古代アンデス文明では2000年前に脳外科手術が行われていた。
古代アンデスで行われていた戦争は、日本や西洋で見られるような鋭利な鉄を持った戦いではなかった。
始まりは、双方からの投石で始まったとされ、接近戦ではこん棒などで殴り合ったという。
よって、戦いによる負傷は、打撲などが主であった。
※現在でもペルーでは、伝統の戦闘行事「チアラヘ」という儀礼的な、お祭りとしての戦争が残っている。

孔の開いた頭蓋骨

アンデスには孔の開いた頭蓋骨が数多く発見されている。
現代では、これらの頭蓋骨は、「戦傷の治療のために行われた脳手術」の跡だと考えられている。
孔の周囲の骨には、治癒後の成長の跡が見られる者が多く、手術後、数年間にわたり生存していた事が分かる。
左側頭部に孔が開いた頭蓋骨が多いのは、敵が右手で攻撃してきた為だと考えると、合点がいく。

ホントに脳外科手術が出来たのか?

脳手術は現代でも高度が技術を要する。
当時の技術で頭蓋骨を切り取り、患者を生存させる事が、本当に出来たのだろうか。
脳手術を行う上で、最低限でも必要な物が二つある。
痛み止めの麻酔薬と、止血作用のある薬だ。

手術に必要な物

アンデスには、コカの葉があり、現代医学でも使われている麻酔薬だ。
勿論、止血作用のある生薬も存在しており、止血自体は当時の技術でも十分可能だったと思われる。
冷涼な乾燥地域であれば、細菌などの感染の心配も比較的少ない。
アンデスには殺菌せずに頭蓋骨を開く手術が出来た地域があったのだ。

どうして頭部に孔を開けたのか?

頭部のケガでは、出血があった方が治りやすく、脳内出血で意識がない場合の方が危険な事が多い。
つまりアンデスの人々から見ると、同じ頭部のケガで出血していればなる事が多かった。
しかし、見た目に傷はなくとも、意識がない場合の方が致死率が高い
そこで、頭部に孔を開け出血を促す事で、生存率を高めていたのかもしれない。

石器で頭皮を丸く切り取り、頭蓋骨を削る。
試すわけにはいかないが、実際に、孔が開いた後に生存の確認が出来る頭蓋骨が残っている以上、可能だと考えられる。
別の問題として、頭骨の内側からは、静脈血がにじみ出してくる。
この出血は、削った骨の粉を詰める事で止血だ出来るという。
実際、脳外科医の歴史の中で存在した立派な止血法らしい。

古代アンデスの医師たちの職業技

頭骨に孔を開け、脳を露出させる事で、脳内の圧力を下げる。
そして、脳に溜まった血を外へ出してやり、最後に傷を覆う事で、アンデスの脳手術は終わった。
傷は塞がなかったようだ。
止血が不完全であれば、傷は塞がない方が良いのだろう。
古代アンデスの医師たちは、経験的に、この事を知っていたのだ。

頭蓋骨に孔をあける3つの方法

(ペルーの人類学者マッギーの分類に基づく)

  1. トゥミという金属器を利用して井桁に削り取る
    手術法は定かではないが、跡のある頭蓋骨が残っているトゥミという金属器が用いられたと思われる。
  2. 石器の尖頭を利用して丸く削る
    石器の刃を利用して丸く削り取る方法。削る時に出た骨粉は止血に利用されたと考えられる。
  3. 頭蓋骨の表面を広く削り取る(スクラッピング)
    全体をスクライパでー削り取って穴をあける方法もあったようだ。あるいは地域、時代によって変化したと考えれる。

トゥミについて

頭蓋穿孔(ずがいせんこう)に利用したとされる道具の事。術者がトゥミを頭に当てている様子を模した像も出土している。
髪を切っているとする説もあるが、被術者は別の人物に押さえつけられている。
トゥミはもともと儀式用のナイフであり、頭蓋穿孔自体が医療目的ではなく、儀式的なものという説も根強い。


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