文字と古代アンデス文明

文字がなかった古代アンデス文明

古代アンデス文明には文字がなかったという。
家族や友人同士による普段の会話では、確かに文字は必ずしも必要ではない。
しかし、インカ帝国などの巨大な国家を維持する為には、全国各地に配置された権力者たちが、情報を正確に処理・伝達する技術が必要だ。
古代アンデスの人々は、一体どうやって、離れた場所から連絡を取り合っていたのだろうか。

インカ帝国

古代アンデス文明の終期に栄えたインカ帝国は、正式にはタワンティン・スウユ(ケチュア語:四州の国)といった。
首都クスコを中心に四つの地方に分けられていた。
その地方は、さらにワマニというインカ制服以前の部族、地方国家に対応する地域に分けられた。
ワマニはインカ貴族の監督の下に地方の首長が治めていた。
インカ族は征服の際には、太陽神信仰、ケチュア語の使用を命じ、土地と家畜の再分配を行った。

各地に宿駅が配置されていた

帝国の交通と通信の為、インカは総延長4万キロメートルにも及ぶ道路網を整備した。
要所要所には宿駅が設けられ、道沿いの小屋には、チャスキといわれる継ぎ飛脚が駐留していた。

他の文明との交流がなく、文字が伝わらなった

だが、不思議な事にインカ帝国には文字がなかった。
メソアメリカ(メキシコ〜中央アメリカ北西部)のアステカ文明やマヤ文明では、文字が生まれている。
しかし、同じアメリカ大陸であるアンデス文明には文字が伝わらなったようだ。

連絡網で何を運んでいたのか

では、宿駅に駐留していた飛脚たちは何を運んでいたのだろうか。
文字が存在しないという事は、伝言による連絡を行っていたという事になる。
しかし、伝言だけでは、権力者の言葉を署名と共に記録として残せない。
勿論、肝心の飛脚たちが、必ずしも伝言を正確に伝えられるとは限らないし、何より、何がしかの目的から、意図的に伝言を操作してしまう可能性もある。
インカ帝国は文字を使わずに、どうやって帝国を維持していたのだろうか。

インカだけの記録方式 キープ

これの謎を解くヒントは少なからずある。
インカ帝国には、キープという縄を結んだ記録方式があった。
紐の結び目が1〜9までの数や位取りを示し、紐の色や組み方が、何を記録したかを示していたという。

キープの専門家

インカにはキープカマヨという、キープの専門家が多数養成されていた。
キープの記録技術によって、インカでは広大な帝国の人口、農産物の生産量を正確に把握していたのである。
キープ自体はスペイン人による征服の後も残っており、家畜の数の記録などに用いられていた。
しかし、キープカマヨが使っていた精緻な記録技術は失われてしまった。

現代で言う暗号のようなもの

おそらく色と形と数の組み合わせでも、帝国を維持する情報処理は出来たのだろう。
ちょうど、現代のコンピューターのコードのような暗号体系になっていたのかもしれない。
数字の列が並ぶキープはIBMのパンチカードと同じようなもので、キープカマヨとは、生きるコンピュータだった。

しかし、文字なしに数字だけでデータを管理していたというのは、信じられないという学者もいる。
ガルシア・パニカという学者はキープが文字も示していた可能性があるという。
数字が子音を表していたのではないか。子音だけ表記して母音は省略する事は珍しくないそうだ。
1533年の征服者ピサロのクスコ入城に始まる戦いで、多くの謎を残したまま、インカ帝国は滅び去ってしまったのである。


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