日本の歴史書

日本の歴史書

現前する最古の日本の歴史書「古事記」が制作されたのは、8世紀初頭である。
以来、「日本書紀」や「続日本紀」を始めとする多くの国史や、史論書、歴史物語、軍記物語などの歴史書が編纂されていった。
日本の歴史は、主にこういった文献資料の形で伝えられてきている。

古事記と日本書紀の特徴

古事記と日本書紀の特徴

国家事業として編纂された歴史書

7世紀後半(飛鳥時代)、天武天皇の命により、国家事業としての歴史書の編纂が始まった。
天武の死によって、一時編纂はストップする事になるが、奈良時代元明天皇の時代に再開され、「記紀(古事記と日本書紀)」が完成した。
こうした歴史書は、律令国家を志向した当時の日本(倭国)が、天皇支配の正統性を広く知らしめるために必要なものであり、中国の各王朝が「漢書」などの正史を編纂したのにならったといわれる。

「記紀」以前の歴史書・文字資料

「古事記」「日本書記」は、6世紀に成立したと考えられている2つの書物「帝紀」と「旧辞」がもとになっている。
※日本書紀は、他に豪族たちの記録も用いられている。
「帝紀」は大王(天皇)の系統や事績を記した書物で、「旧辞」は神話や説話の類とする説が有力だが、どちらも現存していない。
また、厩戸王(聖徳太子)蘇我馬子らによって、「国記」「天皇記」などといった歴史書が編纂されていたが、「天皇記」は、645年の「乙巳の変」で蘇我蝦夷の邸宅が焼かれた際に焼失したといわれている。

国外の歴史書

この時代の日本に関して記された書物として、外国の文献資料がある。
中国の「漢書」「後漢書」「晋書」「宋書」などがあり、「好太王碑」や「石上神宮七支刀」などの金石文、鉄剣銘、木簡などもある。

歴史書一覧 年代順

神代〜飛鳥・奈良・平安初期

日本の正統な歴史「正史」

「日本書紀」は朝廷による正式な歴史書(正史)とされ、以降、五つの正史が編纂され、合わせて「六国史」という。
「六国史」最後の「日本三代実録」に続く正史として、「新国史」が編纂されていたが、完成には至らなかった。

古事記 - 712年
編纂:太安万侶
現存する日本最古の歴史書
記述年代:神話の時代〜推古大王
稗田阿礼が暗記した「帝記」「旧辞」を、太安万侶が編纂した。大王の代ごとに記事をまとめている。
日本書紀 - 720年
編纂:舎人親王など
第一の六国史 最古の勅撰歴史書
記述年代:神話の時代〜持統天皇
神武天皇以降は中国正史にならった編年体。古来、正史として朝廷で重んじられていた。
続日本紀 - 797年
編纂:菅野真道、藤原継縄など
第二の六国史
記述年代:697年〜791年
編年体で書かれた奈良時代の根本史料。
古語拾遺 - 807年
編纂:斎部広成
朝廷の祭祀を司る斎部氏の由緒を記した歴史書
記述年代:神代〜文武天皇
「古事記」や「日本書紀」に記されていない伝承が多い。
日本後紀 - 840年
編纂:藤原緒嗣、藤原良房など
第三の六国史
記述年代:792年〜833年
編年体で人物の伝記や和歌を多く収録している。全40巻のうち、10巻だけが現存している。
続日本後紀 - 869年
編纂:藤原良房、春澄善縄など
第四の六国史
記述年代:833年〜850年
藤原北家が摂関家として権力を握っていく過程が編年体で記されている。
先代旧事本紀 - 平安時代初期
編纂:不明(物部氏の一族とも)
厩戸王(聖徳太子)を撰者に仮託した歴史書
記述年代:神代〜厩戸王の死まで
「古事記」「日本書紀」「古語拾遺」からの引用が見られる。物部氏の事績が多い。厩戸王や蘇我馬子の撰と書かれた序文が偽作。
日本文徳天皇実録 - 879年
編纂:藤原基経など
第五の六国史
記述年代:850年〜858年
文徳天皇一代が編年体で書かれている。略して「文徳実録」とも呼ばれ、人物の伝記が多い。
日本三代実録 - 901年
編纂:藤原時平、菅原道真など
最後の六国史
記述年代:858年〜887年
清和、陽成、光孝3代が編年体で記されている。政治や法制に関する記事が多い。

平安時代後期

将門記 - 不明(10世紀後半とも)
編纂:不明
初期の軍記物語
記述年代:平将門の乱
10世紀前半に起きた平将門の乱について記すが、創作と思われる記述も多い。11世紀に成立したともいわれる。
栄花物語 - 11世紀頃
編纂:正編 赤染衛門 続編 不明
最初の歴史物語
記述年代:正編 宇多天皇〜藤原道長の死 続編 道長の死〜堀川天皇の1092年
別名「世継物語」。道長に対する賛美が多い。正編と続編に分かれている。
大鏡 - 平安時代後期
編纂:不明
「四鏡」最初の作品
記述年代:文武天皇の時代〜後一条天皇の1025年
これも「世継物語」との別名がある。紀伝体で記述されている。長命な二人の老人と若侍の対話形式。
今鏡 - 12世紀後半
編纂:不明
「四鏡」第二の作品
記述年代:1025年〜1170年
別名「続世継」。紀伝体で記述。紫式部に仕えた長命の老婆から話を聞く形式。
水鏡 - 不明(鎌倉時代初期とも)
編纂:不明
「四鏡」第三の作品
記述年代:神武天皇〜任明天皇
内容はほぼ「扶桑略記」からの抜粋。老尼が、仙人の話を聞いたという修行者の体験を聞くという形式。
扶桑略記 - 11世紀末〜12世紀初頭
編纂:延暦寺の皇円阿闇梨(諸説あり)
仏教関係の記事が多い歴史書
記述年代:神武天皇〜堀川天皇の1094年
信頼できない内容が多い。仏教関係の記事に重点が置かれている。
日本紀略 - 平安時代末期
編纂:不明
「六国史」の欠を補える歴史書
記述年代:神代〜後一条天皇の1036年
編年体で記述されている。前半は「六国史」の抄出。後半は公私の記録や日記などによって書かれている。
愚管抄 - 1220年頃
編纂:天台座主・慈円
最初の史論書
記述年代:神武天皇〜順徳天皇
歴史を7段階に分け、末法思想と道理の理念によって述べている。
保元物語 - 1221年前後
編纂:不明
軍記物語の一つ
記述年代:保元の乱 1156年
保元の乱の顛末を、和漢混交文で記す。戦いの場面は、源為朝を中心に描いている。
平治物語 - 13世紀中頃
編纂:不明
軍記物語の一つ
記述年代:平治の乱 1159年
平治の乱の顛末を、和漢混交文で記す。戦いの場面は源義朝の長男・悪源太義平を中心に描いている。
平家物語 - 13世紀前半
編纂:伝・信濃前司行長
軍記物語の一つ
記述年代:平家滅亡に至る源平争乱(治承・寿永の内乱)
貴族社会から武家社会へと移り変わる時代を、仏教的無常観に基づいて描く。琵琶法師などによって広まり、異本も多い。

鎌倉時代

神皇正統記 - 1339年
編纂:北畠親房
史論書の一つ
記述年代:神代〜後村上天皇即位
1343年に修訂。幼帝・後村上天皇の為に纏められたという。南朝の正統性を論じる書物。「大日本史」等に影響を与えた。
吾妻鏡 - 14世紀初頭
編纂:不明(幕府の有力御家人とも)
鎌倉幕府が編纂した歴史書
記述年代:1180年〜1266年
編年体で記述される。内容は幕府や御家人に関する記事が多い。鎌倉時代の基礎資料
梅松論 - 1349年頃
編纂:不明(足利尊氏の側近とも)
軍記物語の一つ
記述年代:承久の乱〜室町幕府の成立期
「太平記」とは逆に室町幕府側の立場で記された書物。
増鏡 - 1376年
編纂:不明(二条良基とも)
「四鏡」第四の作品
記述年代:1180年〜1333年
後醍醐天皇に関する記述が多い。老尼から聞いた昔話を記す形式。

鎌倉後期・室町・戦国時代

太平記 - 1370年
編纂:不明(小島法師とも)
軍記物語の一つ
記述年代:後醍醐天皇の倒幕計画〜室町幕府の安定期まで
南朝の立場で室町幕府の成立が記された歴史書。時折、痛烈な政治や社会への批判も書かれている。
応仁記 - 不明(15世紀末とも)
編纂:不明
軍記物語の一つ
記述年代:足利義政の失政〜山名宗全の死 1473年
乱の原因から東西両大将の死までを中立的に描く。儒教的色彩が強い。
北条五代記 - 17世紀前半
編纂:不明(後北条氏ゆかりの人物と推定)
小田原・後北条氏5代の木尾r九
記述年代:北条早雲〜北条氏直の時代
北条早雲(伊勢宗瑞)、氏綱、氏康、氏政、氏直の逸話を集め、後北条氏の盛衰を物語る。

安土桃山時代

信長公記 - 1598年頃
編纂:太田牛一
信長の一代記
記述年代:織田信長上洛 1568年〜本能寺の変 1582年
信長研究の一級資料。文書を潤色したものに、小瀬甫庵の「信長記」がある。

江戸時代

本朝通鑑 - 1670年
編纂:林羅山、林鷲峰
江戸幕府が編纂した歴史書
記述年代:神代〜1611年
編年体で記述されている。儒教的な合理主義の立場で歴史を語る。
読史余論 - 1712年
編纂:新井白石
史論書の一つ
記述年代:文徳天皇〜江戸幕府の創設期
編年体で記述されている。儒教的な観念で政治体制の変論を論じ、江戸幕府の正統性を述べる。「日本外史」などに影響を与えた。
続史愚抄 - 1798年
編纂:権大納言 柳原紀光
江戸時代後期に書かれた歴史書
記述年代:亀山天皇 1259年〜後桃園天皇 1779年
「日本三代実録」以後の国史編纂を目指したが、実際には宇多天皇から後深草天皇までの部分は完成しなかった。
日本外史 - 1827年
編纂:頼山陽
江戸時代後期に書かれた歴史書
記述年代:源平争乱〜江戸幕府10代将軍徳川家治
列伝体で記述。軍記物語に基づく記事が多い。独特な尊王思想に貫かれ、幕末の尊王思想に大きな影響を与えた。
徳川実紀 - 1843年
編纂:林述斎のもと、成島司直ら
江戸幕府が編纂した歴史書
記述年代:初代将軍 徳川家康〜10代将軍 徳川家治
編年体で記述されている。11代以降の将軍を対象とした「続徳川実紀」の編纂も進められた。
後鑑 - 1853年
編纂:成島良譲
江戸幕府が編纂した室町幕府の歴史書
記述年代:1331年〜1597年
編年体で記述されている。日ごとに古文書など各種記録が並べられている。

明治時代以降

大日本史 - 1906年
編纂:水戸藩2代藩主 徳川光圀など
水戸藩徳川家が編纂した歴史書
記述年代:神武天皇〜後小松天皇
紀伝体で記述。1852年に幕府と朝廷に献上された。南朝を正統とする大義名分論に基づき、幕末の尊王思想に大きな影響を与えた。1806年から出版に着手し、1906年に完成した。

出典・参考資料(文献)

  • 『週刊 新発見!日本の歴史 6号 源頼朝と武家政権の模索』朝日新聞出版 監修:小倉慈司

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