中国

中国は、なぜ領土を欲しがるのか?

1949年に成立した中国共産党による一党独裁国である中華人民共和国。
第二次世界大戦を終え、荒廃していた中国だったが、20世紀後期から、様々な経済改革を経て、世界トップクラスの経済大国へと変貌した。
その中国は、強大な経済力と軍事力を背景に、領土拡大の欲望を隠さなくなっており、多くの国と領土・領海問題を抱えている。
現在の中国について、このページではまとめる。

中華思想と、中国領土の関係

中国と領土・領海をめぐり対立する国々

近年、尖閣諸島などを巡る領土問題で日本と中国の衝突がよくニュースになるが、中国が領土摩擦を抱えている国は日本だけではない。
現在、中国は14もの国と国境を直に接している。
東に北朝鮮、西にアフガニスタンと旧ソ連圏のカザフスタンとキルギス、タジキスタン。
南にベトナムとラオス、ミャンマー、ブータン、ネパール、インド、パキスタン、そして、北にはロシアとモンゴルだ。
さらに、海を隔てた地域も含めれば、東では日本と台湾、南にはフィリピンやマレーシアも領海問題を抱えている。

国が大きいからこそ、敵が多い中国

中国は、これらの外国勢力や、漢民族以外の中華圏内外の異民族と衝突を繰り返してきた。
逆に言えば、それだけ多くの敵に囲まれて来たともいわれる。
ときには、外国や異民族の土地を自国領に組み入れたり、反対に隣接する外国に領土を奪われたり、異民族の文化を吸収して取り込んだ事もある。
大陸国家の国境は、時代とともに大きく変化しており、もちろん、これは中国に限らない。

「中華」は「東西南北」より優れているという思想

古代から漢民族は、自分たちの住む土地を文化的な「中華」とし、その周囲の東西南北に住む異民族をそれぞれ「東夷(とうい)」、「西戎(せいじゅう)」、「南蛮(なんばん)」、「北狄(ほくてき)」と呼び、「中華」より文化的に劣る人々が住む地域と看做してきた。
だが、どこからどこまでが「中華」なのか、地理的な定義は一定ではない。
紀元前3世紀に秦の始皇帝は、その当時の「中華」の北限に万里の長城を築かせた。
尚、現在の中国の領土は、長城より北の地域を多く含んでいる。

「自分たちの土地」を絶対視しない中国

ときには、あっさり都を捨てる

「中華」の領域は拡大だけでなく、丸ごと移動する事もあった。
10世紀に建国された「宋」は満州族に国土の北部を奪われたが、南に遷都して存続した。
日本は1937年の日華事変(日中戦争)に際して、当初、中華民国の首都である南京を陥落させれば、蒋介石総統は降伏して、戦争が終わると考えていた。
しかし、蒋介石は重慶に遷都して抗日戦を続けた。
これは、宋が南に遷都したのと同じであり、外部からの圧力で遷都を行った事がない日本人には、それが分かっていなかった。

台湾に移っても「中華民国」を名乗り続ける

その後、中華民国の国民党は共産党との国共内戦敗れたが、重慶に逃れたのと全く同じように台湾に移動して現在まで存続している。

日本人と中国人における、「土地」への思いの違い

中国において、支配階級だけでなく庶民にとっても住む土地は固定したものではない。
日本の農民は「先祖代々の土地」に強い執着心を持つ。
しかし、中国大陸の内陸部の大部分を占める黄土地帯は乾燥気候なので、何世代も農耕を繰り返していると、土地が痩せて生産効率が低下する。
この為、農民も別の土地に移る事が日常的であったのだ。
日本は島国であり、さらに雨もよく降る為、非常に豊かな自然に恵まれている。
だからこそ、日本人は永久的に恵みを与えてくれる「土地」を財産として、先祖代々受け継ぐ事が出来たというわけだ。

外の「土地」を欲しがる中国

このような「今住んでいる土地」を絶対視しない感覚と、人口の増加を背景に、16世紀ごろから東南アジアに華僑の進出が進んだ。
漢民族の移住は、チベット、ウイグル、内モンゴルなどでは現在も進行中だ。
さらに、中国と隣接するロシアや世界各地にまで拡大している。
こうした中国の領土欲は、「中華」こそが優れた「場所」だという、中華思想とは矛盾しているともいえる。

地球規模にまで拡大し続ける中国

現代の帝国主義

21世紀現在、中国が他国または他民族と衝突している地域や、軍事面、経済面といった形を問わず進出している場所は、もはや中国の国土内とその近隣地域に止まらない。
例えば、東南アジアでは、ベトナムやフィリピン等と南沙諸島の海洋利権を争い、中央アジアのカザフスタンやロシアでは「一帯一路」の為、交通網を整備し、アフリカ沿岸にも海軍基地の建設を次々と計画している。
まるで、欧米列強が、アジア・アフリカ・中東などに次々と植民地を獲得し、領土を拡大し、市場を開拓していった19世紀の帝国主義時代を、150年程遅れて、追いかけているかのようである。
あるいは、アジアの広大な地域を支配して交易網から莫大な富を築いた、元朝の世界帝国を思わせる。

部分的に資本主義を導入する、中国のやり方

中国の海洋進出は、共産党政権や人民解放軍が直接関与するものばかりでなく、民間企業による現地企業や土地の買収なども少なくない。
1990年代以降、中国は国内の民主化運動を弾圧する一方、改革開放政策を本格化して、政治的な自由は与えない代わりに、商売の自由化だけは認めた
さらに、冷戦時代には許されなかった出国の自由も解禁している。
ただし、社会主義の中国では、国内の土地は国有の資産なので、私有出来ない
つまり、中国企業の海外進出や資源利権の獲得、土地買収などは、政府の方針であると同時に、人民の不満をそらす手段にもなっている。

「民間」を「軍事利用」する中国

南沙諸島の埋め立て・軍事化について、中国は、「民間が行っている事」であり、中国政府による軍事的な目的は無いと発言している。
民間利用と言えば聞こえは良いが、中国は、基本的に国民の私有財産権を認めない共産主義国家である。
民間企業が海洋進出を果たした後に、国家から没収される可能性が非常に高い。
現に、中国国内の民間企業は、常に国有企業から圧力を受け、侘しい思いばかりしている。
「民間」という言葉を人質に、海外進出へと利用しているとも取れるのだ。

陰りが見え始めた、中国の拡大主義

こうした中国の海洋進出志向は、1990年代から2010年代の経済成長によって築き上げられた財力に大きく支えられている。
しかし、2015年には上海株式市場が大幅に下落し、IMF(国際通貨基金)や世界銀行も、中国の経済成長の鈍化を、近年では指摘している。

敵と対立するにも、富を削る必要がある

今後は、中国が数多く抱える近隣諸国との係争やチベット、ウイグルなど国内の民族問題が国力の重荷となる可能性もある。
また、同盟国との関係も決して安泰ではない。
北朝鮮は中国に無断で核実験や弾道ミサイル発射を繰り返しアメリカとの関係悪化が著しく、中国にとっても脅威となっている。

これからの中国

日本に大軍を送り込んで来た「モンゴル帝国(元朝)」も、拡大を推し進めて中国の歴代王朝では最大の領土を築きながら、日本やベトナムへの侵攻には失敗し、支配層の内紛と民衆の不満の増大から、政権の崩壊に至った。
これから先の中国が、元と同じように滅んでしまうのか、何らかの方法で現状を打破出来るのか、要注目である。


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