中国の習近平政権が提唱する「一帯一路」を支える国際金融機関「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」が誕生した。
経済覇権を狙う中国に対し、アメリカは各国のAIIBへの参加に反対するが、イギリスの参加表明を機に一斉に参加国が増加。
57各国が参加メンバーとなったAIIBは、資本金1000億ドルで2016年1月に開業した。
アメリカはAIIBへの対抗策としてTPP(環太平洋経済連携協定)交渉を急ぐも、2017年には、アメリカがTPP脱退を表明する。
2015年3月末は、中国が提唱していたアジアインフラ投資銀行設立メンバーの参加締切期限だった。
日米主導のアジア開発銀行(ADB)に対抗するかのような国際金融機関設立の動きに経済覇権を狙う中国の意図を読み取ったアメリカは、表向きはガバナンス(統治)の不透明性を理由として、同盟国にAIIBへの参加を見送るように要請する。
しかし、3月12日にイギリスが参加を表明すると、以後、フランス、ドイツ、イタリア、ルクセンブルクが続いた。
これを見た「米中等距離外交」を標榜する韓国や、対中経済依存度の高いオーストラリアも、ヨーロッパに追随する道を選んだのである。
尚、日本はアメリカの要請に応え、AIIBへの参加を見送っている。
アジアから遠く離れたヨーロッパ諸国は、安全保障面で中国の脅威にさらされていない。
よって、今や世界の成長センターとなったアジア経済の動きに乗り遅れる事で失う経済的利益と、アメリカの要請を断る事で生まれる軋轢を純粋に天秤にかける事が出来た。
AIIBへの参加はこうした前提の上での打算的な選択だったのだ。
AIIBは、中国の習近平政権が提唱する「一帯一路」構想を金融面で支える機構だ。
一帯一路とは、中国からヨーロッパに至るシルクロード経済ベルト(一帯)と、南シナ海→インド洋→地中海を通る海上ルート(一路)の事で、この沿線にある国や地域を包括する経済圏構想である。
中国としては、アメリカが主導する環太平洋経済連携協定(TPP)への対抗であると共に、リーマン・ショック後の景気対策で生じた国内の過剰生産能力を、この地域のインフラ整備で消化するという目的もあった。
日本の受注を奪う形となったインドネシアの高速鉄道建設などはその典型例である。
一方のアメリカとしては、この構想が実現すると東南アジアから中東に至る地域で経済的なプレゼンス(存在感)を失う事になる。
また、中国が同地域で経済ルールの決定権を持つ事も容認できないのだ。
しかし、アメリカは同盟各国のAIIB参加という状況に直面してしまう。、アメリカは対中経済包囲網であるTPPの交渉を急ぎ、2015年10月には閣僚会合で大筋合意に至った。
だが、2017年1月に新たに大統領に就任したドナルド・トランプは、大統領就任日にTPPへの脱退を表明してしまう。
日本は、アメリカに裏切られる形となってしまったが、逆に中国は南シナ海での強引な海洋進出で周辺国の警戒を買ってしまう。
この地域の経済覇権は、先行き不透明となっている。